
新婚の頃、新宿のインテリアショップでミルクパンを買った。
かねてから一人暮らし願望のあった私の脳内には「一人暮らしするときに買うものリスト」があって、その一つがミルクパンだったのだ。
他にも欲しいものは色々あった気がするのだが、今となってはミルクパン以外全く思い出せない。
私にとってのミルクパンは、真っ白いホーローのもの一択。
どこの本やテレビで影響されたのかは定かではないが、「ホーロー以外のミルクパンはミルクパンとは認めない」というくらいに私のミルクパン像は偏ったものになっていた。
そんな憧れのミルクパンをついに数年前、手に入れることができたのだが、最近になってなんかしっくりこないなー、と思うことが度々出てきた。
そう、私が買ったミルクパンは注ぎ口が右側に作られていて、左利きの人用のものだったのだ。
そして私はもちろん右利きの人間である。
使い始めて数年はなぜだかそんなことが全く気にならず、ルンルン気分で使っていた。
「憧れのミルクパンでお味噌汁を作るわたし、うふふ。」なーんて、丁寧な暮らしを楽しむ自分に酔っていたのだろう。(カフェオレやホットミルクではなく味噌汁というところがなんだか自分らしい)
そんなわけで、私は今でも左利きの人用のミルクパンを使って、せっせと汁物を作っている。
小ぶりで安定感があって、すぐに温まるミルクパンは2人分の汁物を作るのに便利なのだ。
P.S.
文章を書き終えてからミルクパンを確認してみたら、なぜか注ぎ口が左側にあった。まさかと思ったが、そのまさかだった。自分の思い込みの激しさとアホさに呆れてしまった。何と勘違いしていたのだろうか。
<文・イラスト / 北野あさみ>

イラストレーター。1995年生まれ。立教大学卒業。2021年よりiPadを使ったイラスト制作をスタート。素朴な手描きタッチを得意とし、広告、書籍、雑誌、プロダクトのイラストレーションを中心に活動中。アートブック作品集『CUT2022年度版(ART BOOK OF SELECTED ILLUSTRATION)』掲載。