
小学5年生の頃、父親の仕事の都合で少しだけスイスに住んでいたことがある。
英語が全く話せなかった私は、インターナショナルスクールのELT(英語が第一言語ではない生徒が英語を学ぶ初心者向けのクラス)という学級で当分の間過ごすこととなった。
そのELTの担当の先生がフィンランドの女の先生だったのだ。
その先生はレイラといった。
レイラはいつも独り言のように「ワラー」だとか「ウララ〜」と叫んでいた。
幼心にその光景はどこか異様で、でもなんだか見ていて落ち着くのだった。
ELTの生徒は、日本人や中国人、韓国人といったアジア系からロシア人、ウクライナ人など実にバリエーション豊かで、全部で30人ほどいたのではないかと思う。
そんなわちゃわちゃとしたクラスをレイラ1人がまとめていたのだから、相当な重労働だったと思う。
あの「ウララ〜」や「ワラー」は、過労が引き起こした症状だったのか、それとも英語の分からない私たちの不安をほぐすためのコミュニケーションの一つだったのか。
その真相を知ることはもうできないのだが、私は後者であること願う。
<文・イラスト / 北野あさみ>

イラストレーター。1995年生まれ。立教大学卒業。2021年よりiPadを使ったイラスト制作をスタート。素朴な手描きタッチを得意とし、広告、書籍、雑誌、プロダクトのイラストレーションを中心に活動中。アートブック作品集『CUT2022年度版(ART BOOK OF SELECTED ILLUSTRATION)』掲載。